地域チーム医療と遠隔医療のための電子カルテ統合ネットの構築

 

 

清水 史郎1), 沖 一1), 岩本 幸治1), 津本周作2), 3)児玉 和夫

1)島根県立中央病院, 2)島根医科大学, 3)出雲医師会


実績のある電子カルテシステム及び遠隔医療支援システムを中心に、離島を含む一次・二次・三次医療機関のネットワーク連携によって、島根県の地理的ハンディキャップを解消し、患者サービス・地域医療の質の向上を図る。

三次医療機関である島根県立中央病院を基幹として、医療機関間で情報参照支援ツールの共同利用により療養担当規則のもとに診療連携など地域全体の医療の質を高める。

 

出雲地域では、島根県立中央病院および島根医科大学医学部附属病院を中核に地元医師会(出雲医師会)・中小規模病院との密接な医療連携が推進されており、島根県立中央病院を例にとれば年間6千人近く(H11.8〜H12.5)の患者紹介・再診紹介がある。

また、島根県立中央病院の分院の位置付けとして島根県立湖陵病院がある。

財)四国産業・技術振興センターによる平成11年度補正事業「診療所用電子カルテシステム開発事業」の機能検証にはも島根県立中央病院・隠岐病院・島後医師会とともに参画している。

隠岐群島のうちの最大の島である島後地域では、島根県並びに隠岐郡の7町村でつくる隠岐広域連合立隠岐病院(二次医療機能の病院)(以下「隠岐病院」という)と、11の主要な開業医・公立診療所で構成される島後医師会とがある。

隠岐病院には、急性疾患の入院機能やCT・MRI等の画像検査機能があるため、重症の救急患者はまず隠岐病院に搬送され、状況によっては、ドクターズヘリ・ジェット機等で本土の三次医療機関(主に島根県立中央病院)に救急搬送される。この状況判断のためのシステムとして、隠岐島遠隔医療支援システム(H11年度旧通産事業にて構築)が実用化されており、本土の専門医による読影、診療方針の助言と本土の三次医療機関に救急搬送するかどうかの判断を依頼することが可能となった。


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今回の事業では、新たに開発するシステム及び今まで段階的に構築してきたシステムをネットワークによって、システム連携させるものであり、一連の事業の集大成であると言える。

地域医療情報ネットワーク管理システムは各地域での情報連携の中核となる情報システムである。各医療機関同士の連携は当システムを介して行われ、標準的な規格を用いた診療情報が蓄積される。将来はデータセンターを拠点としてデータセンター間の連携でASP事業にも道を開く機能とシステム開発を行う。

診療所用インターネット対応電子カルテシステムはインターネット環境に対応した診療所用の電子カルテシステムであり、厚生省3局長通知を遵守するものである。

また、(財)四国産業・技術振興センターによる診療所用電子カルテシステム開発事業の成果を活かすものであり、地域医療情報ネットワーク管理システムとの連携を行う。

IIMS外部連携システムはIIMSと地域医療情報ネットワーク管理システムとの連携を行うためのシステムである。多くの個人情報を管理するデータサーバのアクセスはより高度な利用者セキュリティ管理が要求されるもので新しい利用者管理の開発も念頭に行う。

知識駆動型診療支援システムは島根医科大学医学部附属病院が中心となって開発を行い、神経内科疾患の臨床データを入力・蓄積し、診断支援のための知識ベースを構築するものである。

隠岐遠隔外部連携システムは隠岐島遠隔医療支援システムと地域医療情報ネットワーク管理システムとの連携を行うためのシステムである。隠岐病院で生成された診療情報を参照できる環境を開発し、将来はその情報を共同利用に結びつけるための開発を行う。

SmallIIMS外部連携システムは、島根県立中央病院の電子カルテシステムIIMSのうち必要なモジュールのみで構成されるSmallIIMSと地域医療情報ネットワーク管理システムとの連携を行うためのシステムである。

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出雲地域及び隠岐地域各々に地域医療情報システムネットワーク管理システムを置く。各病院及び診療所はインターネットにより連絡されカルテ情報、紹介状、診療支援情報、検査結果、遠隔医療情報を有する。


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出雲地域の診療所および湖陵病院からの接続は、地域医療情報ネットワーク管理システムまたは知識駆動型診療支援システムに対してのみ行われる。それ以外へのシステムへは、ネットワークルーティングの設定によりアクセスできない。接続手段としては、通信性能面および費用面で優れているADSL網およびケーブルテレビネットワークが中心となるが、これらのネットワークの範囲外にある医療機関への接続も考慮し、INS回線も利用可能である。

電子カルテシステムIIMSと地域医療情報ネットワーク管理システムとの接続は、IIMS外部連携システムを介して行われる。ネットワークは、ルータを介したLAN環境で行われる。島根県立中央病院の地域医療情報ネットワーク管理システムと、隠岐病院の地域医療情報ネットワーク管理システムとの接続は、ルータを介して隠岐島遠隔医療支援システムネットワークを通して行う。

隠岐地域の診療所からの接続は、地域医療情報ネットワーク管理システムに対してのみ行われる。それ以外へのシステムへは、ネットワークルーティングの設定によりアクセスできない。接続手段としては、INS回線を利用する。隠岐島遠隔医療支援システムと地域医療情報ネットワーク管理システムとの接続は、隠岐遠隔外部連携システムを介して行われる。ネットワークは、ルータを介したLAN環境で行われる。インターネット用PCは隠岐島遠隔医療支援システムネットワークに設置し、地域医療情報ネットワーク管理システムとの接続は、ルータを介したLAN環境で行われる。島根県立中央病院の地域医療情報ネットワーク管理システムと、隠岐病院の地域医療情報ネットワーク管理システムとの接続は、ルータを介して隠岐島遠隔医療支援システムネットワークを通して行う

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地域医療情報ネットワーク管理システムは地域中核病院(島根県立中央病院、隠岐病院)に設置し、各施設間のデータ連携の中核となる機能を持つシステムである。医療機関の間での紹介・逆紹介の連携、カルテデータの連携、セキュリティ機能、隠岐島遠隔医療支援システムとの連携を行うものである。当システムは、以下の機能から構成される。

(1)紹介情報管理機能、(2)カルテ情報管理機能、(3)患者情報管理機能、(4)利用者管理機能、(5)セキュリティ機能、(6)遠隔医療連携機能

 

診療所用インターネット対応電子カルテシステムは診療所に設置する電子カルテシステムであり、厚生省3局長通知を満足し、かつ、他機関とのネットワーク連携機能を持つシステムである。(財)四国産業・技術振興センターによる診療所用電子カルテシステム開発事業の成果を活かすものである。当システムは、以下の機能から構成される。

(1)電子カルテ機能、(2)ネットワーク機能(紹介機能、カルテ連携機能、検査連携機能、医事会計システム連携機能、セキュリティ機能)

 

IIMS外部連携システムは島根県立中央病院の既存の電子カルテシステムIIMSが外部連携を行うための機能を持つシステムである。当システムは、以下の機能から構成される。

(1)紹介機能、(2)紹介連携機能、(3)カルテ連携機能、(4)セキュリティ機能

 

SmallIIMS外部連携システムはSmallIIMSが外部連携を行うための機能を持つシステムである。当システムは、以下の機能から構成される。

(1)ネットワーク機能(紹介機能、カルテ連携機能、セキュリティ機能)

 

隠岐遠隔外部連携システムは隠岐島遠隔医療支援システムと地域医療情報ネットワーク管理システムとの連携を行うためのシステムである。当システムは、以下の機能から構成される。

(1)地域医療情報ネットワーク連携機能

隠岐島遠隔医療支援システムは当事業参加医療機関内では、隠岐病院および島根県立中央病院に設置されている遠隔医療支援システムである。遠隔診断結果を地域医療情報ネットワーク管理システムへ連携する機能、遠隔診断依頼時に電子カルテデータを含める機能を追加するものである。当システムは、以下の機能から構成される。

(1)遠隔放射線画像診断支援システム(既存システム)、(2)遠隔カンファレンスシステム(既存システム)、(3)地域医療情報ネットワーク連携機能(追加機能)

 

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電子カルテシステムの効果は、質の高い医療の提供、見読性、合理化、開示、インフォームドコンセント等患者にとって、また医療機関にとって多くの効果が想定される。

またネットワーク連携により医療機関の診療情報が居ながらにして得られることは、効果的で継続性のある診療を行うことが可能となる。具体的な治療方法やその経過を知ることによって退院後の治療も継続維持できる。類似のケースの別の患者の時にも、その経験と病院での検査、治療の結果を知ることは大いに役立つ。このことは現在病院から送付される診療情報提供書でも果たされているが、やはり要約され手紙として受け取るより、多くの生データを直接参照できるメリットは大きい。診療技術の研鑚という意味では、こういう症状、所見で結果はどうなったかどう処置すべきであったか自分の考えた診断、治療方法の過程が間違ってなかったか確認することによって自己の研鑚ができる。この結果、診療所間および病診間の医療の質の格差がなくなり、どこでも質の高い医療が平等に受けられることになる。

また、患者との信頼関係が強まる。「あなたの入院中のことも全部分かってますから安心してください」と。患者にとっては、投薬・検査の重複回避が見込まれるのはもちろん、検査の結果だけを聞きに行くとか予約のための受診等の余分な受診も軽減される。薬歴管理においては、禁忌・重複等のチェックが可能となり患者にとってのメリットも大きい。

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安価で保守性・拡張性の向上を目指していること及びネットワーク対応機能を持つことにより、普及し易く地域全体の医療情報システム化へつながることが期待できる。

島根県立中央病院内の医師会室で、出雲医師会員がカルテの参照を許可されているが、診療所で居ながらにして参照できることにより、出雲地域に密着したチーム医療の実現が可能となる。

隠岐病院としてはこのネットワーク化により、今まで以上により十分な二次医療機関としての機能を持つことができ、効果を発揮できる。離島の医師にとっては、診療技術の研鑚の機会を得ることが一般に困難であるが、当事業により島根県立中央病院の診療情報が得られることで、克服できる面が大きい。遠隔診断においては画像情報のみならず過去の診療情報も付随したものとなり、本土側の専門医により効果的な診断支援を行ってもらうことが期待出来る。

将来的には、これらのことから更に進んで、出雲地域および隠岐地域は各医療機関がそれぞれにカルテを有することなく一つのカルテを共有する、一地域一患者一カルテの実現を目指すことが可能になるのではないかと期待が膨らむ。一地域一患者一カルテになれば、更には健診データも取り込むことにより患者の情報がより一元的に利用出来る事になる。

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病病、病診、診診連携を有機的に行うためには電子カルテによる電子媒体保存が必須条件となってくる。情報化のメリットは縷縷あるが、デメリットとして経費が膨大にかかり、情勢などから一度情報化に踏み切った場合後戻りできないといった事も想定される。診療所の場合はドクターが利用者であり経営者であるため財政担当者との折衝はないが、公立病院にとって財政担当者の情報化への理解を深めてもらうことはかなりの労力を要することとなる。特に病院というところは一般行政及び企業の情報化とは異なり直接的な人員削減には繋がらない。医療の質の向上、本来業務の実施といったような目に見えない部分を数値化し、理解してもらうしか方法がない。

将来データセンターの運営、プログラムの修正などは企業の積極的参加がなければ成り立たない。

情報の共有化にはネットワーク連携が必須となるが経営に支障をきたさない接続経費、業務に支障をきたさないデータ転送速度が必要となる。

しかしながら最終的は規制緩和、法整備が必要となり国への一層の働きかけが必要となる。今回の全国でのネットワーク連携事業は一石を投じるものとなると考える。

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