大阪大学医学部附属病院の電子カルテ

 

松村 泰志
大阪大学医学部附属病院医療情報部

 


1.阪大病院における病院情報システムの経緯

大阪大学医学部附属病院(阪大病院)では、1993年に中之島地区から吹田地区に移転し、この時から、病院情報システムの本格的な導入に取り組みはじめた。この時のシステムでは、処方オーダ、検体検査オーダ、放射線検査オーダ、入院基本、食事オーダ、手術オーダ等の基本的なオーダリングシステムと、病名登録、検体検査オーダ、放射線検査レポート等の診療情報の電子化を開始した。このシステムは順調に稼働し、病院の効率的運用に寄与した。2000年にシステムを更新する機会を得、ユーザに次期システムについての要望をヒアリング調査した。第一期のオーダリングシステムが評価され、オーダリングシステムの範囲を広げたいとする意見が多く寄せられた。このことは、情報の受け手である中央診療部門、医事課だけでなく、入力を担当する医師からも支持された。あるものがコンピュータで、他のものが紙でオーダすることに対する煩雑さがあること、また、様々なチェック機能や履歴情報が確認でき、診療が支援されること等が主な理由であった。また、検査レポートの電子化についても好評であり、更に範囲を広げるべきであるとの意見が多かった。

こうした意見を受け、医療情報部では、第二期システムの仕様案をまとめ、2000年1月より、順次システム導入を進めている。第二期システムの主なポイントは、オーダの範囲を全業務範囲(注射オーダ、輸血オーダ、処置オーダ、病理オーダ、各科検査オーダ、リハビリオーダ、栄養指導オーダ、薬剤管理指導オーダ等を追加)に広げること、検査レポートの電子化を進めること、PACSを導入し、画像を端末から照会可能とすること、オーダ及び実施情報、検査レポート等の診療情報は、診療情報の電子化の条件を満たした形で保存すること、また、これらの情報を統合して照会できるシステムを開発することである。第二期システムでは、その他、退院時サマリーを電子化すること、職員間のコミュニケーションを促進する目的で院内紹介状を電子化すること、また、看護系のシステムでは、患者状態、測定・観察項目、処置・ケア項目、看護診断のオーディットを登録するシステムを導入し、系統的な看護記録を実現することを目指している。一方、初診時の記録、経過記録、看護記録等の部分については、良い面、悪い面の双方があると予想されることから、システム的には、これらを電子化できる機能を持たせながらも、実際の運用には、十分評価をしながら慎重に進める予定である。特に、入院患者の医師の記録部分については、本院が教育病院であることから、当面は、経過記録部分の電子化はせず、研修医には、紙カルテの記載についてトレーニングする方針である。

以上のように、本院では、病院情報システムの発展過程の中で、診療情報の電子化される範囲が広がって来ているが、ユーザにとっては、ある時点から電子カルテに切り替わったといった、大きな意識変革があった分けではない。

 

2.阪大病院における電子カルテの目的

本院では、病歴管理室は十分の広さが確保されており、カルテ保管、搬送に機械が導入され、カルテ管理の運用上、特に困っている状況にはない。当面は、紙カルテと電子カルテを平行して運用することになる。医療情報部としては、電子カルテで管理する情報の範囲を徐々に広げ、逆に、紙カルテで管理する情報の範囲を絞り、究極的には紙カルテを廃止するように誘導したいと考えている。紙カルテと平行して運用する場合、電子カルテの効果として、紙カルテの搬送業務を省力化することにはならない。紙カルテの厚みを減らすことにはなるので、省スペース化についてある程度の効果は期待できるが、これが我々の電子カルテの目的ではない。本院の電子カルテプロジェクトでは、当面、次の4つのことを達成したいと考えている。

第一は、診療録情報を分かりやすくユーザに提示することである。診療録への記録は、単に主治医のメモ書きではなく、関係する医療スタッフに、患者の病状、病歴を伝達するという重要な役割を担っている。一人の患者が、屡々大量の情報を保有することがあるが、紙カルテでは、イベントが発生した順に記録することになり、カルテを見る場合も、記録した順に眺めるしかない。しかし、このような記録から、いつ、どのような異常所見が認められ、これに対し、どのような治療がなされ、その結果、病状がどのように変化したのか、これからどのような検査、治療が予定されているのかといった、きわめて基本的なことが把握しにくい。即ち、紙カルテによる病歴管理には、限界があると言える。電子カルテによる病歴管理では、コンピュータによる編集機能により、収集した患者の病歴情報をユーザの視点に応じて編集表示することができ、病歴把握を支援することがきでる。このことは、診療録が持つべき最も重要な機能であると考えている。

第二は、患者の病歴を、複数の箇所から同時に簡単にアクセスできるようにすることである。今日では、一人の患者に複数の病院スタッフが関与するのが普通であるが、患者情報を知るために1つしかない紙カルテを取り寄せなければならないのは、職員の仕事の効率を低下させる原因となる。電子カルテにすることにより、どこからでも必要な時に患者情報にアクセスでき、それぞれの職員が、仕事の効率を上げることに寄与することが期待できる。また、それぞれが、それぞれの仕事を監視することになるので、安全性を高める効果も期待できる。

第三は、記録業務の合理化である。医療行為は、全てカルテに記載することが義務づけられている。特に、費用を請求する医療行為をカルテに記載し忘れた場合、不正請求と見なされることになる。本院では、オーダ業務の殆どをコンピュータで行うことになっているが、電子カルテが導入されなければ、オーダをコンピュータに登録すると同時に、オーダ内容を紙カルテに記載しなければならないことになる。こうした重複作業は、非効率的であり好ましくない。オーダ情報や実施情報を、診療録保存の要件を満たすように保存し、オーダを登録すれば、自動的に電子カルテに記録され、こうした重複作業をしなくて済むようにするべきと考える。

第四は、臨床研究の支援である。本院は研究機関でもあり、電子カルテが臨床研究を支援することは大いに期待されている。例えば、治験に代表される前向き臨床試験の場合、データウェアハウスから適応症例が検索でき、主治医へ依頼メッセージが伝達できること、一連の検査をセットとしてオーダ登録でき、検査プランを見ながら診療し、また実施状況が確認できること、症状、身体所見等のデータについても、テンプレートを使ってデータ収集でき、後から、情報を抜き出せる仕組みがあること等々が望まれる。

 

3.阪大病院の電子カルテの現状の機能

本院に導入した電子カルテシステムは、NEC社製のMegaOak-NEMRである。本システムは、1995年より、阪大医療情報部と日本電気の共同で研究開発してきたシステムをベースとし、2000年、実用システムへと発展させたものである。

基本画面イメージを図1に示す。左上段にプロブレムリスト、左下段に患者基本情報、右上段にフローシート、右下段にプログレスノートを表示している。


図1(クリックにて拡大200k)

3−1.一覧表示機能

 本システムでは、病歴把握を支援することを目的として、フローシートのシステムを開発した。フローシートは、縦軸に観察記録やオーダの記録(以下メディカルイベントと呼ぶ)の種類、横軸に日時のマトリックス上のセルに記録の存在を表示させ、セルをクリックするとその詳細が表示される診療録の表示システムである(図2)。メディカルイベントの種類は多くあるので、これを3階層までの木構造で表現できるようにした(図3)。各セルへの表記はイベントの種類毎に異なる。オーダの場合は、未実施、実施済み等が記号で分かるようにした。

 
図2(クリックにて拡大 76K)

 
図3(クリックにて拡大 176K)

 

本システムでは、プロブレム毎に、病状の推移を把握するために、メディカルイベントの項目の中から関心のある項目をプロブレムに関連付けすることができる。プロブレムを選択すると、ここで選択した項目に制限した項目のフローシートが表示される。更に、経過記録や検査レポートで、テンプレートを用いて入力したデータについては、その細項目を抜き出して関連付けすることもできる。例えば、糖尿病のプロブレムに対し、治療薬、糖尿病の状態を表す検査データが一つのフローシート上で表示され、病状の経過を追うことができる(図4)。


 図4(クリックにて拡大 64K)

 

電子カルテデータベースのデータ収集は、2000年1月より開始しており、既に多くの情報が蓄積されている。このフローシートで表現されている情報には、各種オーダの記録、検体検査結果、放射線レポート、PACSの画像情報が含まれる。

フローシートシステムから、いつどのような検査が実施されたのか、どのような薬が投与されているのか、いつどような手術を受け、その後、検査がどのように推移しているのか、これから、どのような検査が予定されているのかといった患者の病歴を把握する上で必要な情報が、たちどころに理解できる。また、プロブレムとの関連付け機能を利用することにより、複数の問題を持つ患者でも、それぞれの問題について、どような治療がされ、病状がどのように推移しているかが即座に把握することができる。従来のオーダリングシステムでも、それぞれのシステムにオーダ履歴が照会できる機能があるが、これらの情報を照会することにより、患者の病歴を把握することは難しい。フローシートの、全体を統合して見せることができる機能は、病歴把握には、必須の機能と言える。

 

3−2.PACSとのリンク

放射線部で撮られるほぼ全ての画像をデジタル画像として管理し、病棟、外来の端末より照会可能とした。現在、接続しているモダリティーは、CR15台、CT3台、MRI3台、RI8台、UCG6台、angio2台、心カテ装置2台、X-TV3台である。これらの画像を1 Tb分をハードディスクに、約7 Tb分をDVD-RAM装置に保存している。本院のPACSは、放射線部での画像管理を合理化することよりも、各診療科に画像を配信することを目的として構築されている。従って、基本的には、レポートの参照画像との位置付けであり、この画像を一次読影の対象とはしていない。このPACSのデータベースには、1月で約55 Gbのデータが蓄積され、1日、900シリーズの画像が、病棟、外来から照会されている。これらの画像は、フローシートシステムからも呼びだすことができ、他の患者情報とほぼ同じ感覚で照会することができる。

 

3−3.構造化データ登録の仕組み

構造化データとしてデータを収集するために、入力テンプレートを利用したデータ入力が可能である。構造化データとは、項目+値の基本要素を組み合わせた形でデータを記録する方法である。しかし、このような基本要素を並列的に組み合わるだけでは、多様性のある患者の状態を表現するのは難しい。そこで、基本要素を木構造に配列することにより、表現力を高めることとした。ある基本要素の下位の要素は、上位の要素を修飾する関係にあるとみなす。このような階層構造を持つデータとしてデータが収集できるようなテンプレートを作成した(図5)。

一つのテンプレートで登録した後に、登録データを自然言語変換して表示する。ユーザは、その後、この自然言語変換したデータを見ることになり、構造化データとしては表面には表れない。しかし、データベース上は、XMLによる構造化データとしてもデータを保持しており、今後期待される多様なデータ利用に適応できるはずである。

  
図5(クリックにて拡大 52K,72K)

 

3−4.システム構成

本院のシステム構成では、電子カルテとしての特殊な役割を担うために、電子カルテサーバを設置した。電子カルテサーバは、オーダサーバ、レポートサーバ、画像サーバからも情報を受け、画像そのもののデータを除く全ての診療情報を保存する。

 電子カルテデータベースがデータを収集する経路は4つある。1つ目は、初診時の記録、プログレスノート、退院時サマリーの記録等であり、電子カルテのクライアントシステムから直接データを電子カルテデータベースに対して登録するものである。2つ目は、オーダサーバで収集しているオーダ情報、実施情報を電子カルテデータベースに転送登録するものである。3つ目は、レポート情報の収集である。レポートのデータは、レポートサーバに収集されるが、電子カルテサーバに転送され、電子カルテデータベースにも蓄積される。4つ目は、画像情報のヘッダー情報である。画像が、画像サーバに登録されると、そのヘッダー情報は、電子カルテサーバにも転送され、電子カルテデータベースに蓄積される。

この電子カルテデータベースは、2つの大きな特徴を持つ。第一は、1つのデータベースファイルで構成されている点である。このデータベースに蓄積される1レコードは、上記の4つの経路から伝送されるメディカルイベント情報の1つの単位(同時に転送されるデータセット)に相当する。データベースのフィールドは、メディカルイベントID、患者ID、記録時間、実行時間、科、メディカルイベントタイプ、内容と言った単純な構成になっている。内容部分に収集されるデータは、メディカルイベントタイプによって異なる。第二の特徴は、電子カルテデータベースでは、データを書き換えずに、追記のみを許す構造となっている点である。前の記録に対し修正が発生した場合でも、前のデータを書き換えず、新たな修正データを追記する。

クライアントシステムは、指定した患者の指定期間のデータを一期にデータベースから検索して収集する。クライアント側では、検索したデータを表示のために適したデータ構造に変換して、このデータをメモリに展開すると同時にディスクに保持する。フローシートから、その患者の全ての情報が瞬時に表示されるが、これが可能であるのは、これらの情報がメモリに展開しているからである。この方式では、データ表示のための準備ができてからは快適なパーフォーマンスが得られるが、データ表示のための準備に時間を要する欠点を持つ。そこで、この準備のための処理と表示の処理を分離し、準備のための処理をできるだけ事前に済ませておけるようにした。外来患者では、予約データを参照することにより、どの患者がどの診察室で診察を受けるかがわかるが、この情報より、外来患者のデータは、診察室の端末の電源がオンになった時点で配信され、診察が始まるまでに、表示のための準備を済ませておく。病棟の患者については、病棟の端末について、夜間にその病棟患者のデータを配信し、表示のための準備をする。データベースのレコードは追記しかされないために、既に取得したデータを再度取り込む必要はない。従って、最初の1回目のデータ取得には多少時間が必要であるが、2回目以後は、それまでに取得した情報の差分だけ取り込めば良く、短時間でデータが取得できる。また、この方式では、オフラインで端末を利用することができる。モバイルコンピュータで、ベッドサイドで患者の情報を照会する等が可能となる。更に、サーバがダウンしたりネットワークに障害を起こしても、端末側に取得したデータは照会可能であり、病棟では、前日までのデータが照会可能となる。

 

3−5.セキュリティー対策

本院では、ユーザ認証は、IDとパスワードのみで管理している。この点、ややセキュリティー上甘いと考えている。データを登録する際、確認画面を表示して、内容に誤りがないかを確認させる。これは、厚生省通達及びMEDICのガイドラインに則り、ユーザの過誤により誤ったデータが登録されることを防止するためである。クライアント・サーバ間のデータの通信では、データを暗号化して通信している。ネットワーク上でデータが傍受され、改竄されないようにするためである。また、端末のハードディスク上でも、データは暗号化されている。端末でのデータの漏洩、改竄は最もリスクの高い部分であり、これに対しての対策である。サーバ側に送信されたデータは、サーバ側でタイムスタンプが押され、メッセージダイジェストを作成してデータ保管されている。

 

4.現在の利用状況

オーダ情報、実施情報の記録部分、レポートの記録、画像ヘッダ情報の記録部分の電子カルテデータベースの蓄積は、2000年1月からスタートさせた。現在、これらの情報はフローシートから照会できる。クライアントシステムのEMR viewer、プログレスノート等の記録部分については、2000年7月にリリースしたが、一部の部署でテスト的に利用し、問題点の抽出を行った。同年11月にこれらの問題点を解決したバージョンをリリースし、全端末で利用できるようにした。リハビリ部では、この時より経過記録を電子カルテに登録している。ただ、このバージョンでも、患者選択からデータ表示までにはかなりの時間がかかっていたため、利用はかなり限定したものにならざるを得なかった。本年4月に、クライアントシステムでのデータの準備のための処理とデータ表示の処理を切り離す大きなプログラム改良を加えたバージョンをリリースした。このバージョンにより、比較的多量の情報を持つ患者でも、事前の配信があると、15秒以内でカルテ画面を開くことができる。実環境でのテンス終了後4月25日に全端末に配信した。5月に入院患者の事前配信処理部分をリリースする予定となっている。従って、このバージョンを実際に利用するのはこれからである。

ちなみに、著者は、循環器内科の外来診療の中で、昨年11月から、プログレスノートの記載も含め、この電子カルテのクライアントシステムを利用して診療している。開発者自らの評価でありバイアスがかかった評価ではあると思うが、個人的には、電子カルテを使った診療は、予想以上に快適であると感じている。症状の記載は、ワープロ入力を中心とし、身体所見の入力はテンプレートを利用している。患者の訴えを聞きながらワープロ入力するのは、インサート機能が使え、前後する話でもまとまった文を作ることができるので良いと感じる。また、身体所見の入力は、テンプレートを使うと、迅速かつ正確にデータが登録できるので非常に良い。問題点は、電子カルテ部分よりむしろオーダシステムのリスポンスにある。紙カルテに記録していた時には、紙の記録作業と平行してオーダするので、オーダのリスポンスが悪くてもさほど気にならなかったが、電子カルテでプログレスノートを記載するとなると、平行して作業ができないので、オーダのリスポンスタイムにはより気になるようになった。また、現在は、電子カルテに入力した場合でも、ラベルプリンターに打ち出して紙カルテに貼る運用としているが、このための時間は、余分にかかる時間となってしまう。フローシートで患者の病歴が参照できるのは、大変重宝している。何時検査をしたのか、その結果がどうであるのか、いつからどの薬を服用しているのか、最近撮った胸部X線と前回との比較等、外来診療中に必要となる患者情報は、全てフローシートから得ることができる。フローシートを使い慣れると、逆に、この機能が使えない状況で外来診療をすると、何か重要な拠り所を失ったような不安を感じる。

本院の電子カルテシステムは、NECが開発した最初のバージョンの電子カルテシステムである。このシステムでは、新しい技術が多く導入されており、これを使って実際に利用を開始するには、十分なテスト期間が必要である。現在のバージョンは、フローシートでのデータ表示にかなり力を集中させて開発し、それなりの成果を治めているが、まだ改良が必要な部分は多く残っている。今年度中に、数回のバージョンアップを計画しており、これらが全て終了した時点で、かなりユーザのニーズに合ったもになると期待している。

 

5.今後の計画

今後、検査レポートの電子化の範囲を広げること、紹介状システムを稼働させること、退院時サマリーの電子化を推進することが今年中に実施を予定している課題である。また、一部の科の限定された患者に対して、プログレスノートの電子化を試みたいと考えている。その為には、テンプレートを充実させる必要がある。来年には、看護職員のEMR viewerのリリースを計画している。これにより、入院患者の記録の多くが電子カルテに記録され、照会可能となる。この中で熱形表も電子化される予定である。

 

6.おわりに

阪大病院での電子カルテプロジェクトは、上記の通り、まだ途に就いたばかりである。本院では、病院のトップによる意志決定で電子カルテを推進しようとしているのではなく、病院情報システムの発展の流れの中で、診療録の多くの部分が電子化されることになってきたというのが実状である。医療情報部では、ユーザの要望を反映し、ユーザの支持を得ながらシステム化を進めるのが基本的姿勢である。一方、我々との契約メーカであるNECは、本格的な電子カルテシステムの開発導入を、精力的に進めてくれている。本電子カルテの構成は、斬新なアイデアを多く含んでおり、それだけに、実環境で稼働させると、予想以上にリスポンスが悪い等の問題点が顕在化する部分があった。NEC社では、これらの問題点を分析して、順次改良を進めてくれている。本院は、このシステムの最初のユーザであるので、このシステムを評価しながら、その達成の度合いに応じて、システム化の範囲を徐々に広げる予定である。

この度、吉原先生よりお声をかけていただき、阪大病院の電子カルテの運用状況についてお話する機会をいただいたが、残念ながら、期待されているようなお話ができないのを申し訳なく思っている。技術的な部分では、新しいチャレンジをどんどん進めており、潜在的なレベルでの進歩は決して遅くないと考えているが、本院における電子カルテの運用自体は、上記の通り、ゆっくりとしたスピードで進んでいる。まだ、開発途上にあるシステムを導入する場合、そうならざるを得ないと考えている。一部で、電子カルテ不要論、電子カルテ悪者論があるが、まだ、生まれたての雛鳥にそのようなレッテルを貼るのはかわいそうに思う。我々は、このシステムを大切に育て、最終的には大きなものにしていきたいと考えている。