電子カルテ開発のコスト管理


医療法人財団白十字会Health IT 戦略本部(経営企画統括本部)
平尾幸一、横山吉博、浅野訓一、藤本修治、竹谷貴海


 

【はじめに】

 当法人では、昭和58年にIT専門の部署を設置し、医事システムや老人保健システムの開発、販売を行ってきた。平成7年には、第1世代のオーダリングシステム、部門システムと医事会計システムを自社開発し、法人内の佐世保中央病院(佐世保市、一般病床312床)と白十字病院(福岡市、ケアミックス病床:一般病床299床、療養病床167床)で稼働させ、平成14年に自社開発第2世代のオーダリングシステムと部門システムに更新した。今年度、自社開発した電子カルテシステム(以下、電子カルテ)を佐世保中央病院と白十字病院に導入するにあたり、そのシステム概要と開発導入費用を中心に発表する。

 

【何故自社開発するのか?】

 医療側(経営側、職員)と患者側は、どのような電子カルテを望んでいるであろうか。
 経営側は、導入費用が安価で既存のコストが少しでも削減でき経営戦略に利用可能な電子カルテを望んでおり、職員側は入力ストレスが少なくカスタマイズに応じてくれることを望んでいる。患者側は、安全で適切な医療を安心して受けられることを望んでおり、電子カルテに対する期待は大きい。

 さて、安心、安全で適切な医療を電子カルテ導入により実現するためには、医療側の視点だけでなく患者側の視点に立って、業務の見直しと改善が必須であることは言うまでもない。が、このような業務見直しと改善を実現した電子カルテは実在しているであろうか。費用が高額であるために、あるいはパッケージであることを理由に、カスタマイズを断念し(あるいは断念させられ)、人手による複雑な運用を強いられていないであろうか。昨今、医療界に限らずいろいろな企業における制度改革、システム開発を行う場合、顧客満足度が高いだけでなく、職員満足度も高いことが求められている。職員満足度と顧客満足度は比例する場合が多く、職員満足度が低い電子カルテからは、高い患者満足度は得られない。

 以上より、医療機関は、患者満足度、職員満足度、導入に伴う経済効果の3点のバランスがとれた電子カルテを求めている。これら3点をもとに、当法人で可能な電子カルテ導入方法を検討した。

第1は、電子カルテを可能な限り自社開発する方法。この場合、医療の質、医療の安全が高まることが約束され、患者側も職員も満足し、経営戦略に必要なデータ処理が可能になる。

第2は、最低限の機能を有する電子カルテパッケージを導入し、オーダリングシステムを自社開発する方法(現在と同じ仕様)。しかし、現在の佐世保中央病院の自社開発したオーダリングシステムと部門システムに関する職員満足度は高いが、ベンダーの診療録部分に対する職員満足度は高くない。また、ベンダーが開示したデータベースから当法人が独自に各種の統計、分析を行うシステムを構築しているが、マスターコードの不備から、必要なデータがない、あるいは取り出せないということも経験しており、経営側の満足は得られていない。

第3は、電子カルテパッケージを導入し、必要な部分をカスタマイズする方法(おそらく診療録記録部分のカスタマイズは不可能)。この場合でも、職員満足度がどこまで高くできるか未知数であり、導入費用は相当な高額になる。

第4は、電子カルテパッケージをノンカスタマイズで導入する方法。この場合、職員満足度は高くないが、導入費用はかなり低く抑えられる。
以上の4つの導入方法について検討した結果、当法人においては四半世紀に及ぶ医療情報システム開発の歴史があること、コスト面、将来性、職員満足度、患者満足度を慎重に検討した結果、電子カルテ自社開発の道を選択した。

【自社開発電子カルテの概要】
 自社開発したシステムは、以下の通りである。
  1)医師診療録部分(コメディカルの記録、電子クリニカルパスを含む)
  2)看護支援システム
  3)オーダリングシステム
  4)各部門システム
  5)健康増進センターシステム(以下、健診システム)
  6)SPDシステム・原価管理システム
  7)財務・総務・人事システム

 また、以下のシステムはベンダーのパッケージを導入し、自社開発したシステムとインターフェースを用いて接続した。なお、ほとんどのパッケージのデータベースは開示していただいた。
  8)医事会計システム(更新購入)
  9)透析システム(導入済み)
 10)PACS(導入済み)
 11)薬剤部門システム(更新購入)
 12)DPC分析システム(導入済み)
 13)地域医療連携ネットワークシステム(導入済み&一部更新)

 上記1〜12のシステムを接続するのに必要なゲートウェイは、現システムの23台から自社開発したシステムでは13台に減少した(詳細は当日発表する)。SPDシステムとオーダリングシステム(実施情報のこと。健診システムを含む)は一体となっており、これらと医事システムをゲートウェイで接続し全国的にも数少ないシステムを実現した。
 なお、開発する電子カルテシステムは、ウイルス感染やソフトのライセンス費用節約のため、インターネットとは接続しないクローズドな環境とし、マイクロソフトオフィス製品は使用しないこととした。

 

【電子カルテの開発方法およびコスト】

 当法人におけるITの開発と運用は、システム開発室という部署が担当しており、システムの基本設計と開発は佐世保中央病院のシステム開発室が行い、白十字病院のシステム開発室ではマイナーなカスタマイズを行っている。
 平成16年6月、電子カルテ自社開発に当たり、佐世保中央病院のシステム開発室が電子カルテの設計を行い、派遣社員がプログラムを作成するという基本方針を立てた。当時は、佐世保中央病院の4名のシステムエンジニア(以下、SE)が開発と運用を担当していたが、電子カルテシステムの開発を担当する専属のSEを増員し、開発班6名、運用班3名と分化させた。また、派遣社員は、佐世保中央病院のシステム開発室へ出向しプログラムを作成してもらうこととし、最盛期には10名の動員を計画した。平成17年4月より、システムの基本設計、派遣社員の動員を開始し、平成20年3月で派遣社員の動員を終了する予定である。
 システム全体の統括は、システム開発室のトップ(プロジェクトリーダー)が行い、診療録部分、看護支援システム、オーダリングシステム・部門システム、健診システム、SPDシステム、財務システム他について、専任のSEを決めて、そのもとに専属の派遣社員を1〜2名配置し、平成17年4月より電子カルテの開発を開始した。電子カルテ開発コストも含めて、詳細は当日発表する。

【結語】

 電子カルテ開発の人件費を含めた総額は、当初見積もりしていたよりも低く抑えられ、医療側(経営側、職員)と患者側の満足度が高い電子カルテが、平成19年7月より稼働する。