「HOTプロジェクト」における
医療サービスのマッシュアップ


東京都医師会理事 大橋克洋


 東京都医師会のITを利用した地域医療連携事業は、東京都福祉保健局による「都内診療所に電子カルテを普及させ、もってカルテ開示を促進する」との意向で始まった。しかしその後、東京都医師会独自の事業、もっと広い視野の「HOTプロジェクト」として推進されるようになった。

  1. HOT プロジェクトのめざすもの

     「HOTプロジェクト」の最終目的は「医療と社会とのより良いコミュニケーションの場の提供」にあるが、その前に都内医療機関の体制を受け皿として整備する必要がある。そのようなことで現在は「医療機関における医療業務のサポート」に主体をおき整備を進めている。補助金による事業は立ち上げパワーはあるものの、その後の維持が難しい例が多くみられる。東京都医師会は自前の予算での運用を基本としており、一度に多額の投資は困難で毎年コツコツと段階的に整備を進めているところである。

     当初から予想したことであるが「電子カルテの導入」に意欲的な医療機関は極めて少なく(手書きで何も困っていない)、東京においては次期尚早であることが最初の年度で明らかとなった。そこで「インターネットで Web を閲覧できる環境があれば使える」「電子カルテを導入していなくても日常診療に役立つ医療サービス」を提供してゆく方針とした。

  2. ほっとライン

     「HOTプロジェクト」で構築したネットワークを「ほっとライン」と呼び、登録したメンバーだけが認証を経て利用できる。現在「ほっとライン」のポータルサイトには、「紹介状システム」「医療内容開示システム」「セキュリテイーを確保したメール」「電子処方箋」などのメニューが用意されている。「電子処方箋」については2006年1月からサービスを開始したが、提供していた団体が資金的問題により 残念ながらこの4月でサービスが停止となった。これは非常に有用なサービスとなるはずのものであり、今後は東京都医師会自前で提供したいと検討中である。

  3. マッシュアップ

     MashUp とは「複数の異なる提供元の技術やコンテンツを複合させて新しいサービスを形作るもの」。SaaS: Softoware as a Service とは 「ネットワークを通じてアプリケーション・ソフトの機能を提供する仕組み」。 また SOA: Service Oriented Architecture すなわち「大きなシステムをサービスの集まりとして構築する設計手法」などがあり、 これらは最近のソフトウエア・サービス提供の流れのひとつである。

     「ほっとライン」はこのような考えを取り入れ、「都医自前のサービス」「企業によるサービス」「医師会など団体によるサービス」「個人によるサービス」、また「無償」「有償」の色々なサービスを有機的に組み合わせ提供してゆく予定である。Web アプリケーション開発技術も着々と進化しつつある。 今後は「いろいろな提供元からのサービスを相互に組み合わせて使える環境」を構築し、東京都医師会として医療機関や一般社会へ提供してゆくべきと考えている。

  4. 異なる医療連携システムの相互乗入れ

     「ほっとライン」のサービスは、すべて「Webサービス」として提供されるので、登録メンバーであれば何処でも利用できる。 この利点を生かし今後は宮崎、熊本、京都の他に、これらとまったく異なるシステム、 全国のいろいろな地域医療連携システムとの相互乗入れをはかっていきたい (それには異なる医療情報交換規約との相互マッピング:翻訳などの必要がある)。 相互乗入れには以下のような利点がある。

    1. 全国どこからでも同じような医療サービスを利用できる
    2. 共有により機能や使い勝手などの改良速度の向上
    3. 全国で同じような機能を重複して開発・調達する必要がない
    4. ソフトや DB などの共有による維持費や開発費などのコスト削減
    5. サービス提供企業にとってはシェアの拡大


2007年5月26日(土)Seagaia meeting 2007