EBM評価機能による病診連携支援型広域電子カルテ事業

 

久島昌弘
沖縄県立中部病院


1.提案システム構築の背景・趣旨

当院(沖縄県立中部病院)は全国的に有名な教育研修病院であるとともに、高度医療機能を備え、1次救急〜3次救急を積極的に行なっている病院である。近隣の診療所に通院中の患者の状態が悪化した場合や、急性疾患を併発した場合の紹介・転院を受け入れており、また離島診療所での重篤な救急疾患発生時の最終転送先ともなっている。基本的には高度医療機能と研修システムの人的リソースをフルに活用する急性期治療病院であり、安定期・慢性疾患患者は近隣・離島の診療所に逆紹介している。

当院と離島の公立診療所間には「離島僻地医療支援ネットワーク」があり、いわゆる「イントラネット」として、電子メールなどによる情報連携を行なうネットワークインフラが既設されている。

 

当院で治療を受けた患者を近隣・離島の診療所へ(逆)紹介する際、いったんは重症化した患者の今後をの治療が、標準的な治療ガイドラインに沿っているかどうかは、紹介する側の医師からは気になるところである。

高度医療機能と救急対応を生かしながら特定機能病院への移行を目指す当院としては、患者の紹介率を上げ、病診連携を強化する必要があるが、そのためには近隣診療所との情報共有・連携を深めて相互紹介をやり易くし、さらに連携する診療所と共に医療レベルの向上を図ることが必要である。

 

また、全国的に抗生剤の濫用が問題となっている時代であり、今回のシステムと、本院および地区医師会の感染症データベースの連携により、薬剤感受性に基づいた抗生剤の適正利用、および地域の感染症と菌種・感受性データベースの公開が必要と思われる。

 

1.2提案システムの目的・成果・意義

上項の問題へのアプローチとして、以下のことを実証実験として行なう。

1.2.1.当院および計画に参画する近隣・離島診療所に電子カルテを導入し、診療行為の電子カルテ記載が、入力時に適切な形でコード化され、最終的に時系列にしたがって半時動的にサマリとして生成されるシステムを開発する。

1.2.2.当院と診療所の電子カルテ情報の相互連携により、診療所の電子カルテから逆紹介後の患者の診察記録を定期的・半自動的に当院に転送、診療内容がEBM的評価基準(治療ガイドラインなど)に照らして適正かを調べるフィルタを通し、かつ当院の専門家がその結果をレビューし、診療所での診療状況のレビューを行なうことで、地域の事情、およびEBMの見地からみて適切な医療が行なわれているかを確認する。かつて重篤化し当院で治療を受けた患者がその後診療所での慢性期フォローを受けながら、当院へ来ずとも当院で定期診療を受けるようなイメージである。

 

上記の確認の結果により、より適切な治療オプションがある場合は、当院専門家より診療所へ向けて治療方針の推奨をおこない、また関連する医学情報リソースを提供する。このような患者情報の共有と医療レベル評価および診療サポート機能を継続的に参画診療所に提供し、それらにより診療所の医療レベルを向上を図る。

 

これらにより病院と診療所の機能分担を明確にし、より多くの患者さんを安心して地域のかかりつけ医のもとに戻せるようになると期待できる。

 

また、将来的には幅広い地域レベルでの本格的な診療監査audit(peerreview)が可能となり、患者さんが安心できる根拠に基づく医療(EBM)を実現できると考えられる。

 

1.2.3.上記のシステムと、当院感染症データベース、および中部地区医師会立成人病検診センターの感染症データベースを連携し、得られる情報から個別の患者の抗生剤使用に関する適正性の評価、および、地域の感染症の動向・菌種・感受性の動向についてのデータ公開の可能性を検討する。

 

2.実施概要

2.1.当院および計画に参画する近隣・離島診療所に電子カルテを導入し、ICPCインターフェースを開発する(慢性期用)

2.2.当院と診療所の電子カルテ情報を集積する「EBMサーバ」を構築し、蓄積された診療情報に対し、内容がEBM的評価基準(治療ガイドラインなど)に照らして適正かを調べるフィルタ(EBMエンジン)を構築する。エンジンによる評価結果は当院のEBM専門家がそれをレビューし、診療所での診療状況のレビューを行なう。そのためのEBM評価エンジンおよび「EBMサーバ」を開発する。

2.3.上記の確認の結果により、より適切な治療オプションがある場合は、当院専門家より診療所へ向けて治療方針の推奨をおこない、また関連する医学情報リソースを提供するメカニズムおよび運用体制を確立する。

2.4.上記のシステムと、当院感染症データベース、および中部地区医師会立成人病検診センターの感染症データベースを連携し、得られる情報から個別の患者の抗生剤使用に関する適正性の評価、および、地域の感染症の動向・菌種・感受性の動向についてのデータ公開の可能性を検討する。


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「開発環境」

(1)データベース

・OS: UNIX

・データベースエンジン: ORACLまたはSYBASE

・開発言語: SQL

 

(2)電子カルテ

・OS: MacOS-X、またはWindows2000+WebObjects4.5

・開発言語: Objective-C、C、CyberFramework

 


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