医療連携を目指したweb型医療情報データベース
研究開発プロジェクト

医療情報データベース研究開発プロジェクト委員会
江本 豊1), 堀江 武史2), 岩田 彰3)

1) 藤田保健衛生大学 医学部
2) ダイテック 開発技術部 
3) 名古屋工業大学 工学部 
URL: http://mars.elcom.nitech.ac.jp/ekarte/



プロジェクトの概要

「医療情報データベースシステム研究開発プロジェクト(eカルテプロジェクト)」は財団法人堀情報科学振興財団創立10周年記念事業(URL: http://www.hori-foundation.or.jp/10th/outline.htm)の助成を受け、近年著しく進歩した情報処理技術およびネットワーク技術を医療の現場で積極的に活用するための基礎を構築し、この実証試験を行うことを目的としている。
医療における診療録(カルテ)の情報を電子化し、共通のデータベースセンターで運用することで情報を複数の医療機関で共有することの有効性を検証する実証実験である。



プロジェクトの期間

平成12年6月10日より2年間



方法

データベースセンターを設置し共通カルテを置いた。カルテの使用者はSSLによる暗号化を用いたインターネット接続により共通カルテを使用した。SSLはセキュリティ強化のためクライアント証明書を用いた双方向認証方式を採用した。クライアント証明書の発行については名工大岩田研究室に立ち上げた認証局から行われ、使用者毎に一つ発行することとした。この認証により使用者の権限や個人設定を決めた。患者を識別するIDは最初の登録時にセンターで生成したGUID(Global Unique ID)を用いた。異なる施設間での患者情報の共有化を行う場合は患者がこのGUIDを施設に提示することで情報の共有化を承認することとした。
データベースセンターは図1のようにMML文書を受け取りデータベースに格納する機能とブラウザーへのインターフェイスを提供する機能とに分離されている。

図1.システム概念図



データベースセンター

(1)MMLプロセッサー・データベースサーバー
HTTP通信によりMML文書を入出力する機能をもったサーバーで開発は全てJavaベースとなっている。MML記述ファイルと添付の書類を同時に受け取り処理してデータベースに格納するための拡張が一部なされてはいるが、入出力の要求は全てMMLのデーター交換規約に則って行われる。

(2)HTMLユーザーインターフェースサーバー
HTMLを用いた電子カルテユーザーインターフェースを実現するために、こちらもJSP、Servlet、XSLTを用いたJavaベースとなっている。このサーバーがMMLデーターサーバーからMML文書をHTTP通信で取得し、XSLTで電子カルテのビューを作成しブラウザへ出力している。またカルテ記入の場合はHTMLのFORMベースで送られたデータをMML文書に構成してMMLデーターサーバーへ送っている。この仕組みにより図1.の(1)のようにweb browserを用いてカルテにアクセスが可能である。Browserの場合はカルテ情報の参照には適していたが、柔軟な入力インターフェイスを実現するには限界があった。例えば、使用する医師の個人別あるいは診療科別に入力支援のためのインターフェイスを変えることが考えられる。これを実現するには多くのマスター・テーブルをサーバー側で用意し、必要になるたびにサーバーとの通信を行う必要があった。


図2.カルテの画面(クリックで拡大)



3種類のカルテのインターフェイス部分

今回のプロジェクトでは大きく分けて以下の3タイプのユーザーインターフェースが開発された。

(1)HTMLベースでブラウザーのみで使用できるカルテ
これはWeb browserさえあれば使える電子カルテASP(Application Service Provider)というコンセプトに基づいてHTMLベースで実現されたユーザーインターフェースである。これにはアプリケーションのメインテナンス負担の軽減、使用するコンピュータの制限が比較的少なくできるという利点がある。一方で欠点としては使用者ごとのカスタマイズが行い難いこと、純粋なHTMLのみではオーダー入力時などマスタアクセスのために頻繁に画面更新がかかるため、レスポンスにいささか問題があることである。ユーザには仕様をなかなか納得してもらえず、度重なる変更で開発に思いのほか時間がかかった。たとえば、GUIとして通常の操作と思われるウインドウ中のオブジェクトのドラッグ操作に制限があったり、入力エリア表示エリアが分かれたりする不自然さである。

(2)アプリケーションによる入力支援付browserを使用するカルテ
上記のHTMLの機能はそのままに、ユーザーの入力の負担を軽減するための機能の補完する目的でWeb Browserに機能付加を行う形で開発されたものである。マスタアクセスなどを毎回サーバーに行わなくてもよく、より使いやすいユーザーインターフェースが実現可能でとなった。また、ブラウザーのみで使用するカルテと同じサーバーにアクセスして使用できた。アクセスするサーバーはアプリケーションASP方式の利点であるメインテナンス負担の軽減は若干失われることになった。

(3)ローカルアプリケーションによるカルテ
データベースセンターでインターフェイス部分とデータベース部分を分けた構造にした。そのため、後述するMML processorの仕様に基づいたアプリケーションを作製することでデータベースに直接MMLと添付書類を書き込みあるいは読み出すことが可能である。レセプトコンピューターとの病院内LAN上でのCLAIM連携などを視野に入れるとともに、より使いやすい機能の実現を目指してHTMLのインターフェースとは全く別のクライアントアプリケーションとして現在開発中のものである。カルテのMML文書はHTMLユーザーインターフェースサーバーを介することなく、直接MMLデーターベースサーバーと通信を行うことになる。



オーダーと医事連係について

前述のとおり今後クライアントアプリケーションによるCLAIMを用いた医事連携を行う予定予定であるが、今のところ実現できていない。当初このプロジェクトでは医事連携は行わないという方針に落ち着いていたが、これは実証試験を進めるにあたっての幅広い協力が得られない原因となった。医事への連係が取れなければ2重の入力が必要にり、最終的に紙カルテに置き換えることができないためユーザーである医師はこのプロジェクトへのメリットを感じられないからである。



実証サブプロジェクト

実証試験として、地域全体が包括的に運用できれば理想的であるが、医療施設は日常の診療を行っており試験のためにそれぞれのシステムを入れ替えることは困難であった。そのため、プロジェクトを3つのサブプロジェクト(「病診連携」「病薬連携」「検診連携」)に分けた。

(1)病診連携

共通電子カルテを用いて、病院と診療所間の情報共有体制を構築した。患者は共通IDを持つ。

<実証実験参加医療機関>
名古屋市総合リハビリテーションセンター、周辺の開業医
<対象患者>
上記開業医とリハビリセンターの両方に通院している脳血管障害を持つ患者

(2)病薬連携

医療機関および調剤薬局で発生する情報を一元化し共有する仕組みを構築した。電子カルテ上にある患者特有の情報や過去の薬歴・病歴をオンライン参照することにより、医師から薬剤師への治療方針等のコメント、薬剤師による適切な服薬指導、医師への指導内容の報告、特記すべき情報の提供などが行えるようにし

<実証実験参加医療機関>
名古屋市総合リハビリテーションセンター、みかん山調剤薬局、その他周辺薬局
<対象患者>
リハビリセンターにて処方箋をもらい、上記薬局にて薬を受取る患者

(3)検診連携

検査結果は共通カルテ上に記載される。そのため、開業医の手元に届くまでの時間短縮・検査データの一元管理が可能になった。同様の仕組みで患者が検査結果を参照できるが、今回は実際に患者からのアクセスは行わなかった。今回は放射線検査に絞って情報共有を行う仕組みを構築した。放射線科検査レポートはkey画像とともにサーバーにファイル転送され、共有カルテに書きこまれる。結果の参照は、カルテの過去情報や他の施設の情報と同様に参照が可能になった。

<実証実験参加医療機関>
岡崎医師会公衆衛生センター(検査センター)、岡崎医師会の有志の開業医
<対象患者>
開業医に通院し、検査センターで検査を受ける患者



今後の予定

開発したプログラムはオープンソースとして公開する。とくにMMLデータベースのMMLプロセッサーはMML文書と添付書類を同時に処理でき、汎用性の高いものである。ブラウザーインターフェイスサーバーは、実際のカルテで使用する場合に改変が必要と思われる。しかしながら、webブラウザーでカルテを実現する場合の参考になるものと考えている。
堀財団のプロジェクト期間が終了した後には名古屋工業大学のプロジェクトとして引き継がれることになっている。引き続き、実証試験や前述のlocal applicationによるMMLカルテの開発を進めていく予定である。
まででは、カルテに情報を記載することに限定されているが、CLAIMを用いた医事会計との連係でオーダー部分の充実をはかったり、Clinical pathを取り入れた診療支援の仕組みを検討していく。特にClinical pathの情報をMMLで扱う方法も検討したい。




医療情報データベース研究開発プロジェクト委員会 開発チーム
岩田 彰(名古屋工業大学)
山内一信(名古屋大学医学部)
江本 豊(藤田保健衛生大学医学部)
松原充隆(名古屋市総合リハビリテーションセンター)
稲垣員洋(名城大学薬学部)
大津史子(名城大学薬学部)
松岡正澄(みかん山調剤薬局)
大原雅之(岡崎市医師会公衆衛生センター)
辻巻健太(弁護士)
若山公威(名古屋工業大学)
崔 華(名古屋工業大学)
堀江武史(ダイテック )
川口憲彦(ダイテック )
サリンダ(ダイテック )
宮田理(オーテックス)